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色気を奪われた斎藤工を見るべきワケ。おちぶれた漫画家を演じた映画『零落』 | ビューテ

時刻(time):2023-03-18 15:08源泉(Origin):δ֪ 著者(author):kangli
斎藤工主演の映画『零落』が、2023年3月17日(金)から公開されている。 ©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会 名優・竹中直人による監督作品で、かつて売れっ子だった漫画家の零落(=落ちぶれること)の日々が綴られる。この零落感、斎藤工にぴったりだと思った。でもそこには色気ある斎藤工はいないというのが本作最大の見どころ。 「イケメンと映画」を

 斎藤工主演の映画『零落』が、2023年3月17日(金)から公開されている。

©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会

©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会

 名優・竹中直人による監督作品で、かつて売れっ子だった漫画家の零落(=落ちぶれること)の日々が綴られる。この零落感、斎藤工にぴったりだと思った。でもそこには色気ある斎藤工はいないというのが本作最大の見どころ。

「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、色気を奪われながらも“工(たくみ)な”低音ボイスで美声を響かせる斎藤工に迫る。






色気むんむんの斎藤工ではなく


 これはぜひとも劇場のスクリーンで観てもらいたい作品だ。竹中直人監督の洗練された映像センスがすばらしいからか、それとも主演の斎藤工の演技がすばらしいからなのか。理由はどちらもなのだけれど、主人公の“声”を聴くためだけでも足を運ぶ価値はある。

 8年に及ぶ長期連載を終えた深澤薫(斎藤工)は、一時はヒットを飛ばしたものの、最終巻の発行部数を減らされ、すでに終わった漫画家になっている。自分の漫画が売れないことにいら立ち、あっという間に落ちぶれる。あとは腐る方向へ一気に傾くしかない。

 という役柄上、これはいつものように色気むんむんの斎藤工を必ずしも見られる作品ではない。負(腐)のオーラに包まれた深澤は、終始どよんとしていて、お世辞にも色っぽいとはいえないからだ。でもそのかわり、この深澤を通じて斎藤工の深い味わいが楽しめる“声のドラマ”に期待してほしい。






もごもご低音の聞き取りづらさ


©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会
 最初、深澤の声はほとんど誰の耳にも届かない。あまりに低音だからか、相手の耳にもごもごと聞こえてしまう。妻ののぞみ(MEGUMI)にしろ、久しぶりに集まった同級生たちにしろ、深澤のぼそぼそ言葉に対して彼らは必ず、「え?」と聞き返す。

 のぞみにいたっては、「なんて言ってるか聞き取れないんだよね」とはっきり指摘する。彼のもごもご低音ボイスは、劇場のクリアな音響空間で聞いている観客にでさえ、くぐもっていて、聞き取りづらいところが多い。

 でもそこは、斎藤工のあの低音ボイスである。クールなもごもご感といったらいいだろうか。これがたまらなく耳に心地いい。深澤の破綻した人格に反比例するように、この低音がどれほど複雑な効果を生み出していることか。













「え?」のボイスドラマ


©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会
 次第に彼の声を不思議と聞き取れるようになる。それは、猫顔の女性を偏愛する深澤が、落ちぶれ始めるきっかけになるひとりの風俗嬢との出会いからだ。ちふゆ(趣里)という源氏名を持つ彼女と華美な装飾のラブホテルで最初に会話を交わす場面に耳を澄ましてみる。

「ですか?」と聞くちふゆに対して深澤は、「え?」と聞き返す。それまでほとんど誰ともコミュニケーションが取れておらず、聞き返される側だった深澤が逆に聞き返した瞬間、コミュニケーションがはじめて成立する感動がこの場面にはある。

 このあと、ふたりは親密な関係性になり、何度も逢引を重ねることになるのだが、その間、深澤の口から合計3度の「え?」が発せられる。この一文字だけが聞き取りやすいことが奇妙だ。斎藤工による「え?」のボイスドラマはまだまだ続く。






色気を奪われた斎藤工


©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会
 この単音のボイスドラマは、筆者が劇場で律儀に数えたところ、結局合計4度の「え?」で成り立つことになる。この単音の歯切れの良さがかえってドラマ全体の深刻な雰囲気を助長させる演出も秀逸だ。

 ちふゆと田舎に逃避行した深澤は、都会生活でくぐもっていた発声が驚くほどクリアになる。どんよりした陰鬱なキャラクターがすこしいきいきとするのだが、その一方で、彼の生活はどんどん破綻する。ちふゆとの出会いは、彼に幸福をもたらすどころか、文字通りの零落をもたらす。

 劇中、何度かインサート的にモンタージュされる沖合の波の様子や波打ち際の点景は、すさんでいく深澤の心模様を象徴している。斎藤本人が俳優としてのターニングポイントだと語る『昼顔』(2017年)のカラッと晴れた官能的な海は本作にはない。もちろん官能の海に相応しい色男としての斎藤工もいない。本作での斎藤は、魅力的な低音ボイスがフィーチャーされるかわりに徹底的に色気を奪われている。













血管まで深く浸透する“工な”低音ボイス


©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会
 3月9日に渋谷のユーロライブで行われた特別試写会で筆者は本作を観た。上映のあとにトークショーが行われ、斎藤工が登壇した。そこで斎藤が使っていた「わたくし」という一人称が気になった。

 斎藤の口から発せられた「わたくし」は、深澤のようなもごもご感は全然ない。聞き手の耳に滑らかに入り込んできて、脳内に反響しながら、首筋の血管まで深く浸透する。そう、斎藤工は、血管まで深く浸透する声を持った俳優なのだ。

 この声が、竹中監督の演出手腕とセンスで作られた映像世界に響く。最初はもごもごと、そこから徐々にクリアに。まるで画面を押し広げるかのような力のある美声だ。まさに“工(たくみ)な”低音ボイスが、上映後も観客の身体を揺さぶり続ける体験だった。斎藤工は、色気を封じられても、声だけで艶(なま)めかしさを表現できる人だなと思った。

<文/加賀谷健>
加賀谷健
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu




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