Q. 「眠らないと風邪をひきやすくなる」って本当でしょうか?
睡眠不足で体調不良を感じる人は多いと思いますが、実際に睡眠不足と風邪などの感染症へのかかりやすさには関係があるのでしょうか? わかりやすく解説します。
Q. 「仕事が忙しい時、睡眠時間を削って頑張っていると、必ずと言っていいほど風邪などをひいて体調を崩します。気の持ちようなどではなく、寝不足と風邪のひきやすさには実際に関係があるのでしょうか?」
A. 睡眠不足と感染症のかかりやすさには、関係があります
「睡眠不足になると、風邪を引きやすくなる」と言われますが、これは科学的にも本当です。一般的には「免疫力が下がる」と言われますが、より具体的には、睡眠が不足することで免疫をになう白血球がエネルギー不足になってしまい、十分なはたらきができなくなるためです。
風邪予防はもちろん、風邪をひいた時も一番の薬は「睡眠」だと言えます。しっかり休んで代謝率を下げることによって、体内のエネルギーを白血球にまわして、白血球に細菌やウイルスとしっかり戦ってもらうのが一番です。
風邪をひいたときには体のだるさ(倦怠感)を覚えることがありますね。実はこのとき、体の中では、侵入してきた細菌やウイルスを白血球が見つけて、それを排除しようと活動を始めています。白血球がエネルギーを消費するので、脳や筋肉を働かせる方にエネルギーがまわらなくなり、それが「だるくて何もしたくない」という感覚につながるのです。
このときはまさに白血球が戦ってくれているわけですから、私たちがやるべきことは「何もしないでしっかりと休む」ことです。そうすることで、白血球にエネルギーをまわしてしっかり戦ってもらいましょう。
「だるいけど仕事があるからやらないと……」などと無理をすると、白血球が十分に力を発揮できなくなり、感染症の症状が長引いたり、悪化したりします。
ちなみに断眠状態を続けたネズミの実験では、2週間足らずで全ての個体が死亡してしまいましたが、直接の死因は、全身性の感染症である「敗血症」だったそうです。睡眠をとらずに脳や体を動かす活動を続けたことで、白血球にまわるエネルギーが不足する状態が続き、免疫機能が低下したことで重度の感染症が生じたものと思われます。
感染症の予防にも回復にも、睡眠はとても大切な役割を持っているのです。
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)