元ADの現役テレビ局員、真船佳奈さんのコミックエッセイ『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』(オーバーラップ)。妊娠中のつわりの辛さ、夫とのすれ違いなどが赤裸々に描かれており、ネット書店の総合ランキングで国内3位となるなど大きな反響を呼んでいます。

令和妊婦、孤高のさけび!頼りになるのはスマホだけ?! (はちみつコミックエッセイ) 真船佳奈(著)
【前回の記事】⇒妊娠検査薬の使いすぎで破産しそうに!ガンバった結果、妊娠できたのに辛い理由とは<漫画>

1人で戦っていたコロナ禍の出産
――真船さんはコロナ禍での出産でしたが、立ち会いや面会ができない大変さはありましたか?
真船佳奈さん(以下、真船):コロナ禍以外の出産を体験していないので比べられないのですが、ずっと1人で戦っているみたいな感じがありました。
母親学級も禁止で、病院は個室なのでほかの妊婦さんとも語り合えない。
出産した時は分娩台の脇にスマホをセットすることができて、夫と通話しながら産みました。無痛分娩だったので通話が始まった頃には痛みが引いていて、麻酔を入れる前に陣痛でのたうち回っていたのに夫はその姿を見ていない。仕方ないことなのですが、夫に対して「本当に辛いところは見ないで、出産のハイライトだけ見ているなあ」というさみしさがありました。陣痛中に夫に腰を揉んでもらったり、夫婦の共同作業を通して出産するというのに憧れはあったので残念な気持ちが少しありましたね。
産後も、ふにゃふにゃの新生児を渡されて、どうしたらいいのか分からない中、全部1人でやらなければいけないのも辛かったです。
――“夫は勤務先の部署で初めての男性の育休を取った”と描かれていました。
真船:なかなか休めないくらい忙しい部署だったし、育休を取る男性がそれまでいなかったので1ヶ月間の育休を申請するのはすごく大変だったらしいです。あまり自分のことを話さない人なので、そんなに苦労したんだと後から聞いて知りました。
産後クライシスの原因は?
――夫婦で新生児の育児をする中で、いわゆる「産後クライシス」になっていくところがリアルでした。
真船:当時は夫が私と同じ思いで育児をしてくれないことに腹が立っていました。でも、私が不満を爆発させたあと夫と話し合ったことで「私とは育児の捉え方が違うだけだったんだ」と理解することができたんです。
私は“母乳じゃなきゃ”とか、“授乳中は子どもの目を見る”とか、子育ての1つ1つのタスクを全部ちゃんとやらなければいけないと思っていたんです。夫の方は「この先長いんだから可能なペースでやればいいんじゃない」という考え方。
でも夫がリラックスしながら育児をしているところを見ると、私は必死すぎてリラックスなんかできなかったし、夫に「思いつめすぎてるんじゃない」と言われても「育児はちゃんとやってたら、思いつめちゃうものだよ!」と思ってしまい、どんどん気持ちがすれ違っていきました。
――第一子だと特に、どうやって手を抜いたらいいのか分からないですね。
真船:他の人がどのくらい手を抜いているのか、コロナ禍なので聞けないことも大きかったかもしれません。スマホで調べると、完璧な離乳食の写真や、「手を抜くと大変なことになる」系の情報がどんどん出てきて、「愛着障害」の4文字におびえていました。
今考えると、「そのくらいで愛着障害になるなら世の中の人全員グレてるよ!」と思えるのですが、当時は情報に踊らされていましたね。もっと早く他のお母さんに出会って「ここは適当でいいよね」という話ができたらよかったなと思います。
役割分担を決めていなかったのが敗因
――育休中の夫との役割分担は決めていたのでしょうか?
真船:そこをちゃんと決めていなかったのが我々の敗因だと思います。「お互い気づいた方がやろう」という感じで新生児育児を始めてしまいました。それだと、敏感になっているお母さんの方が動いてしまいがち。
「夫はどうしてこんなに悠長(ゆうちょう)なの?」と不満が溜まっていくのは、こういうパターンが多いのかもしれません。振り返ると、私は余裕ゼロだったし、体調のこともあってイライラしていたし、お互いにコミュニケーションができていなかったなと思いますね。
特に母乳派の人は授乳をこなすだけでも大変な負担なので、お互い寝る時間帯を決めて。夜中は搾乳(さくにゅう)した母乳を夫があげる…などきちんとシミュレーションしてシフトを組んでおけばよかったな、と思います。
夫との関係が改善した理由
――育児に関して夫と話し合ったことで変化はありましたか?
真船:その後も色々な局面があったのですが、言いたいことはちゃんと伝えるようになったし、私も周りにうまく頼れるようになって関係が良くなってきたと思います。夫が部署移動で以前よりは早く帰宅できるようになったり、引っ越しをして私の実母の家に近くなって助けを借りられるようになりました。
産後クライシスをどう描くかは、どちらか一方を悪者に描きたくない気持ちがあったので1番難しいところでした。夫の言い分も描いているので、ご夫婦で読んでもらえたら、どちらの気持ちも共感いただけるんじゃないかと思います。
――漫画で「夫」のキャラクターが面白いのですが、真船さんから見てどんな方なのでしょうか?
真船:思っていることを1回飲み込んでから話す人ですね。私自身は思っていることが全部口から出ていく人間だし、空気に流されたり、常にトラブルに見舞われて大騒ぎしてるような人間なんですが、夫はそういうことが一切ないです。夫の母が、「この子があわてているところを一度も見たことがない」と言っていました(笑)。
私が漫画を描くために、土曜は1日中子供を見てくれますし、料理が得意なので最近では私より数段立派な幼児食を作って息子に食べさせています。子どもも「トト、トト」と言って、夫の姿が見えないと泣くこともあります。父としてもどっしりと構えてくれていると思いますが、最近は子供がかわいすぎるようでデレデレを隠しきれていません(笑)
©真船佳奈『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』はちみつコミックエッセイ、オーバーラップ
X – Twitter @mafune_kana
<文/都田ミツコ>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
(エディタ(Editor):dutyadmin)