へその緒がついたままの赤ちゃん猫と出会った、漫画家の青山ゆずこさん。しばらく仕事を休み、家へ迎え入れることにしたのですが……(以下、青山ゆずこさんの寄稿)。
【漫画の前編を読む】⇒へその緒がついた赤ちゃん猫を拾った私。医師の「厳しい言葉」で目の前が真っ暗に<漫画>
完全に母猫の代わりをしなければいけない

家の庭でへその緒がついたまんまの、産み落とされたばかりの猫を保護した次の日。
改めて動物病院で診てもらったところ、厳しい言葉を投げかけられました。
「へその緒がついているような赤ちゃん猫は、育てるのはものすごく難しい。正直、僕でも育てられないと思う」

なんでも、完全に母猫の代わりをしなければいけないので、90分おきにミルクをあげたり、母猫が舐めて排泄をうながすように、股間部分をポンポンとさすってトイレの世話をしてあげる必要があるそう。
ミルクをあげる動画を動物病院で撮影して……
わたしはひとり暮らし。90分おきにミルクとトイレって、どうやって寝ればいいの? それに仕事だってあるし。
でも、でもですよ。目の前には、小刻みに震えている生き物がいるんです。「できません」なんて言えるわけがないのです。
ミルクと哺乳瓶を各ホームセンターやネットで探して、ひと通り揃えました。ミルクのあげ方は動物病院で何度も習ったし、見返す用の動画も撮りました。
ええいままよ!
できない理由を探すんじゃなくて、どうやったらできるかを探したるわ! ……と、後先考えずに、とにかく必死でした。気が付いたときには、いつも仕事をもらっている『週刊SPA!』の編集部に電話をかけていて、正直に「1か月お休みください。あ、もしからしたら2か月。へその緒がついた猫を拾ったので、最低1カ月は外で取材できません」とそのまんま伝えていました。
「問題ないっす。うちの編集部、猫派の方が多いので」
文句を言われるかと思いきや、結果はあっさりOK。
え。単にわたしが必要とされていなかった気も否めませんが、そこはあえて深くは考えないでおこう。うん、そうしよう……。

とにかく、これで育てる準備は整いました。
“あたたかいおいなりさん”のお世話が始まった
産まれたての子猫は、とにかく小さい。
リアルな大きさとして、ちょっと生あたたかい“おいなりさん”か“おはぎ”を片手で包み込んでいる感覚を想像してみてください。そう、それです。
せわしなく動く“あたたかいおいなりさん”の喉の通り道を片手で確保しながら、素早くミルクの温度をはかります。熱くもなく冷たくもなく、ちょうどいい温度のミルクを作るのは素人には想像以上に難しい……。しかもこれを90分おきに繰り返します。
もう部屋のこたつの天板のど真ん中に、ティファールのお湯を沸かすケトルをどん! とおいて。温度計もニトリで買って。冷ます用の水を入れたボールと、こぼれた水を拭くハンカチも5枚くらい積んで。
<90分おきにミルクを作り続ける>というミッションが課せられた生活が始まり1週間ほど経ったころでしょうか。まとまった時間寝られないせいで睡眠不足でもうろうとしながらも、「ハッ!」と気が付いたら無意識でケトルでお湯をわかして、ミルクを溶いてたという……。

一日の大半をこたつで過ごして、その合間に、生きていくための最低限の銭を稼がないといけないので、とにかく必死です。
うんちはまるで「練りからし」
もちろん猫のトイレも。お腹や局部をポンポンと軽くさすってあげると、練りからしのようなうんちがプリプリッと出てきます。(お食事中の方すみません)

このときは、「猫よ、頼むから、なにがなんでも生きてくれ!」という思いで必死だったので、ほとんど記憶がありません。
90分サイクルで、ミルクをあげて→うたたねをして→ミルクをあげて→原稿を書いて→トイレをさせて、ミルクをあげて→そのままこたつで倒れこむように寝て→そして90分後にまたミルクとトイレ……というルーティンがずっと続きます。
回数を重ねるたびにミルクのあげ方も上達したのか、満腹になって「けぷっ」とげっぷ(なのか?)をしてから爆睡をかます赤ちゃん猫。
人間と猫を比べるわけではありませんが、「世の新生児の親御さんたちは、毎夜毎晩、夜泣き対応やミルク、おむつ替えを頑張っているんだなあ」と、酷使したケトルを強く握りしめがなら、感慨深い気持ちにもなりました。
そして疲れ切っていたのか、無心で猫のミルクをうっかり飲むアラサー。
「なにこの牛乳コクがあって美味いじゃん。どこのメーカー?」と、本気でリピートしそうになる始末。
「青山コネコさま」
実はですね、この赤ちゃん猫を保護する半年ほど前に、ずっとひとり暮らしの心の支えだった黄色いセキセイインコを亡くしていまして。まだその傷が癒えていなかったんです。さらに赤ちゃん猫を診てもらった獣医さんから「この子はミルクを飲む力が弱いから、長くは生きられないかもしれない」とも言われていました。
奮闘を続けるうちに口の周りをミルクだらけにして飲んでくれるようになったものの、「また失ってしまうかもしれない」という不安があって、ずっと名前をつけられないでいたのです。
そうしたら、子猫のお薬に書かれた名前が「青山コネコさま」。(青山はわたしの苗字)
コネコさま……! なんか可愛い……!

でもほぼ丸一カ月ろくに寝ず、猫もわたしも多分全力で頑張った結果、子猫はひとり(一匹)で網戸をよじ登るまでに成長したのです。
そして、テレビの『午後のロードショー』だって熱中しちゃう。
お気に入りの俳優はクリント・イーストウッドらしい。彼が出るシーンになると、凝視して固まる不思議。渋さがわかる、ませ猫め。
あざと可愛い猫に成長しました
そして無事に目もひらき、あざとすぎるほどの可愛さを手に入れた子猫。
なんだかんだと怒涛の勢いで毎日が過ぎ、どうにか乗り越えて3か月。病院の先生の心配をよそに、ご飯やミルクをもりもり食べる猫に成長しました。

出会ったときは、小さい取り皿に“ちょこん”とのっていたおいなりさんは、3カ月で元気な美猫に……!
鼻水と涙でぐちゃぐちゃになりながら育てた
生きてきて猫を飼ったことは一度もなく、さらに重度の猫アレルギーだったわたし。
鼻水と涙で顔面ぐちゃぐちゃになりながらも、必死すぎていつの間にか克服していました。
でも身なりを気にする余裕はなかったので、めっちゃ口元のひげが伸びてた。眉毛も危うく繋がるところでした。
この原稿を書いている今この瞬間も、キーボードと腕の間に「ムリムリッ」と入り込んでくる……。“美しきおいなりさん”は現在もすくすくと成長しています。
ちなみに名前は、25日に保護したので、「にこ」といいます。THE★安直。
【漫画の前編を読む】⇒へその緒がついた赤ちゃん猫を拾った私。医師の「厳しい言葉」で目の前が真っ暗に<漫画>
<漫画・写真&文/青山ゆずこ>
青山ゆずこ
漫画家・ライター。雑誌の記者として活動しつつ、認知症に向き合う祖父母と25歳から同居。約7年間の在宅介護を綴ったノンフィクション漫画『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)を上梓。介護経験を踏まえ、ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちをテーマに取材を進めている。Twitter:@yuzubird
(エディタ(Editor):dutyadmin)